肥満で高くなる!「乳がん」のリスク
新たに乳がんと診断される日本人女性の数は毎年約9万人。特に40〜50代の女性に多く、若い女性だけの病気ではありません。がん研究会有明病院の片岡明美先生に、乳がんのリスクを中心にお話を伺いました。(2016年春号掲載)
公益財団法人がん研究会 がん研究会有明病院 乳腺外科副医長 片岡 明美(かたおか あけみ)先生
佐賀医科大学(現 : 佐賀大学医学部)卒業、九州大学病院、九州がんセンター、東邦大学医療センター大森病院乳腺・内分泌科客員講師などを経て現職に至る。日本癌治療学会臨床試験登録医、検診マンモグラフィ読影認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医・指導医、日本乳癌学会専門医・指導医
◎乳がんに気をつけなければならない年代は?
片岡先生:年間約9万人もの日本人女性が新たに乳がんと診断されています。その数は年々増え続けており、女性に最も多いがんの一つとなっているのが現状です。データによると、罹患率は30代から急増し、ピークが40〜50代後半。平均年齢は57歳です。この年代の女性は特に注意が必要と言えますね。
◎乳がんはなぜ増えているのですか?
片岡先生:乳がんは、女性ホルモンの「エストロゲン」の影響を受けて発症することがわかっています。女性には欠かせない「エストロゲン」は初潮が始まってから閉経するまで分泌され続けますが、妊娠中〜授乳中には少なくなるため、初潮が遅い・閉経が早い・出産の回数が多い人ほど、乳がんのリスクが低下すると言えます。
現代の日本人女性は昔に比べて初潮が早くなり、妊娠の回数は減少しました。婦人科疾患の効果的な治療として体外から女性ホルモンを追加する機会も増えています。「エストロゲン」の影響を受ける期間が長くなったことが、乳がん罹患率の増加につながっているのでしょう。
◎どんな人が乳がんにかかりやすいのでしょうか?
片岡先生:喫煙や飲酒の習慣も影響しますが、何より乳がんのリスクが高くなるのは肥満です。「エストロゲン」は閉経すると脂肪からつくられるため、脂肪が多い人ほど乳がんのリスクが高くなると言われています。日本人を対象にした乳がんの最新調査でも、20年前の体重と比べて12キロ以上増えた人は、乳がんにかかる確率が高いことがわかりました。成人してから体重が大きく増えた人や閉経後に太ってきた方は注意していただきたいですね。
さらに、乳がんの約15%は遺伝性ということがわかっており、乳がんや卵巣がんになった家族が2人以上いる人は遺伝性乳がんのリスクがあります。特にその家族が40歳以下で罹患した場合や、左右共に乳がんだった場合などは注意が必要です。
その他にも、胸部の放射線治療を受けたことがある人、組織検査で乳腺症と診断されたことがある人もリスクが高くなると言われていますが、これらのリスクが少ない人でも乳がんにかかる可能性はあります。年齢にかかわらず、定期的に検診を受けましょう。
◎乳がんの検査と治療について教えてください。
片岡先生:乳がんの検査には、視触診とマンモグラフィ・エコー・MRIによる画像診断などがありますが、最適な検査方法は乳腺の密度や形など「胸の個性」によって決まります。検査の頻度も一人一人異なるので、かかりつけ医を持って自分に合ったプランを立ててもらいましょう。特に乳腺専門医やマンモグラフィ読影認定医が在籍する医療機関がおすすめです。
治療には外科手術・放射線療法・薬物療法などがあり、それぞれ技術が目覚ましく進歩しています。治療方法は、がんの性質・進行度・しこりの大きさ・浸潤(がん細胞が深く入り込むこと)や転移の有無などによって異なりますが、早期のうちに発見できれば選択肢が多く、乳房を温存することもできます。また、早期発見でない場合も以前より治療の可能性が広がっており、乳房を温存できなかった場合の再建技術も発達しています。
◎乳がんを予防することはできますか?
片岡先生:まずは検診ですね。日本の乳がん検診の受診率は米・英・韓の7〜8割に対してわずか3割で、まだ意識が低いのが現状です。有名人の罹患が発表されると一時的に受診者も増えるのですが、その後はまた逆もどりしています。「がんが見つかったら怖い」のはもちろんですが、もっと怖いのは「発見が遅れること」。乳がんは早期発見と適切な治療で社会復帰が可能な病気です。定期的に検診を受けていれば過剰におびえる必要はないと思っています。
また、検診と併せて肥満にも気をつけましょう。肥満は乳がんのリスクを高めるだけでなく、乳がんになった場合に治療の選択肢を限定してしまいます。さらに、糖尿病・心臓病・脳卒中などの原因になることも良く知られています。急激な体重の増加を防ぐことで、健康寿命を伸ばし、末永く人生を楽しんでいただきたいですね。