重大疾患リスクも上がる!「睡眠時無呼吸症候群」
あなたのイビキ、ひょっとしたら身体のSOSかも!? イビキに隠された病気と治療のメリットについて、睡眠呼吸器科の成井先生に伺いました。(2016年春号掲載)
虎の門病院 睡眠呼吸器科部長 成井 浩司(なるい こうじ)先生
東海大学医学部卒業。虎の門病院睡眠センターセンター長、呼吸器センター内科医長を経て現職。日本睡眠学会睡眠医療認定医、日本内科学会認定医、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医。
Q:日常的にイビキをかくのは病気ですか?
A:朝まで切れ間なく続くイビキは、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」のサインかもしれません。
お酒を飲んだ後や疲れている時などは、誰でもイビキをかきやすくなるものです。注意が必要なのは、イビキが朝までずっと続いたり、仰向けで寝ると大きくなる場合。睡眠中に呼吸が止まることはありませんか? そうだとすれば、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を疑った方が良いでしょう。
実は、イビキをかく人の約5割にSASの可能性があります。「大きなイビキ」「睡眠時の無呼吸」「日中の眠気」といった症状がSASの特徴ですが、自分自身ではなかなか気付くことができません。もしご家族にこのような症状があれば、医療機関の受診を勧めましょう。
Q:SASの原因について教えてください。
A:肥満・あごの形状・加齢などが引き金となり、睡眠中に気道がふさがって呼吸停止が繰り返されます。
SASは、睡眠中に気道がふさがり一時的な呼吸停止が繰り返される病気です。その一番の原因となるのが肥満。舌やのどに脂肪がつくと、気道が狭くふさがりやすくなってしまうのです。また、加齢によってのどの筋肉が落ちることも原因の一つと言えるでしょう。
発症率の男女比は3対1で、一般的に太った中年男性に多いと思われがちですが、女性にも少なくない病気です。閉経後の女性は気道を広げる働きをする女性ホルモンが低下するため発症しやすく、あごの小さい若い女性や子どもにも可能性があります。身近な病気として、気にかけていただきたいですね。
Q:きちんと治療をしないとどうなりますか?
A:生活の質が低下するだけでなく、高血圧を併発し、心筋梗塞・脳卒中などのリスクが高まります。
睡眠中に呼吸が止まる=脳や身体が断続的に覚醒してしまうということ。充分寝たつもりでも倦怠感や強い眠気が取れず生活の質が落ち、居眠り運転などの重大事故の危険も増します。
さらに怖いのが合併症です。SASは高血圧・高脂血症・糖尿病・不整脈などの生活習慣病の合併が指摘されています。特に、SASの約6割の人が合併していると言われる高血圧は、動脈硬化を引き起こし、進行すれば心筋梗塞や脳卒中などの重大疾患にもつながるので注意が必要です。事実、SASでない人と比較して、心筋梗塞の発症率は6・9倍、脳卒中は3・3倍との報告もあります。
Q:SASの検査と治療について教えて下さい。
A:簡易検査や入院検査で治療が必要と判断された場合、CPAPやマウスピースなどで治療します。
問診で疑いがある場合、まず行うのが簡易検査。小型の機器を持ち帰り、自宅で睡眠中の呼吸状態を調べます。さらに重症度などを調べるため、一泊入院による精密検査(睡眠ポリグラフ検査)を行う場合もあります。
治療が必要と判断されたら、基本となる生活習慣指導と並行して、CPAP(シーパップ)による治療を行います。鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防ぐ、最も効果的な治療法です。あごが小さく軽症の方はマウスピースによる治療もあります。治療を続けることで睡眠の質が上がり、合併症の改善にもつながるでしょう。
Q:日常生活で気をつけることはありますか?
A:食事・運動などの生活習慣を見直しましょう。睡眠環境を改善することも大切です。
SASの多くは「肥満」と関係があります。SASの人はもちろん予防したい人も、バランスの良い食生活と習慣的な運動で、適切な体重維持を心がけましょう。飲酒や禁煙の習慣も見直した方が良いですね。また、横向きで寝ることでイビキが軽減する場合もあります。
さらに、枕とマットレスのバランスが悪いと気道を圧迫することがあるので、睡眠環境を整えることも大切です。質の良い睡眠のためには血流の滞りを防ぐための「寝返り」も重要。寝具を見直す際に、マットレスは「寝返りがしやすいもの」「体圧を分散するもの」「身体をしっかりと受け止めるもの」を選ぶと良いでしょう。